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勇将のもとに弱卒なし
   
   若年労働者

 長引く日本経済の低迷は、若年労働者を大量にスポイルさせた。少子高齢化に加え、若い人材を登用できない脆弱な日本経済は、いよいよお先真っ暗である。
 このほど発表された「国民生活白書」二〇〇三年度版によれば、十五歳以上三十四歳までの若年労働者の現状は、見るも無惨な状況にある。
 厚生労働省や内閣府が定義する若年人口とは、若年労働者同様十五歳から三十四歳までを指す。若年総人口(学生も含む)は、三四五三万人である。この中で、就業者は二〇六四万人で、そのうち五一五万人がフリーターなのだ。何と四人に一人がフリーターである。その上完全失業者が一五〇万人も存在し、これは若年労働者の六・八%にも達している。
 フリーターも若年失業者も、親と同居する未婚者(学生除く)が圧倒的に多い。既に学業を終えている若年労働者は、何歳であろうとも、いわゆる社会人である。彼らがパラサイト人生を送り、結婚も出産もしないとなれば、日本の将来展望はますます閉ざされたものになる。
 若年就業者に対するフリーターと失業者の合計の比率は、三三・五%にも達し、丁度三人に一人が正規軍になっていないことになる。
 この実態は当事者はもとより、国家にとっても大きな損失だ。日本経済の将来を担う若年労働者の三人に一人が、能力を目一杯発揮できる状態になっていないのである。
 政治の責任は大きい。
 財政出動と緊縮財政を交互に繰り返した挙句に、一向に再生できない平成の歴代内閣は、無能の烙印を押されても仕方あるまい。既成政党や国会議員の機能と能力が問われる。その上、議員の世襲は目に余るほどになっている。世襲を禁止する声が上がると、「職業の自由選択を阻害する」と大声を上げる。そんなに世襲をしたがるのは、うま味の多い職業(商売)だからなのだろう。
 世襲側に見識がないのか、投票者(国民)に良識がないのか、恐らくその相乗効果によって、政治の私物化≠ェ成り立っているのだろう。
 こんな国家運営に嫌気を起こし、いよいよ政治的無関心になっている老若男女がゴマンといる。  鳥羽博道さんは、ドトールコーヒー(東証一部)のオーナー経営者である。十代からコーヒーショップに勤め、コーヒーの本場ブラジルで修業を積み、コーヒーショップを創業して、業界トップに上り詰めた。
 その鳥羽さんは、もう現在の政治家には期待しないと、一線を画してしまった。
 鳥羽さんの自説は、次のような内容である。
「一人の優れたリーダーによって、国家は再生できるのです。老大国化したイギリスを再生したサッチャー、建国三十年でアジアの一流国にしたシンガポールのリー・クアン・ユー、社会主義市場経済の導入で中国を世界の工場化し、巨竜を覚醒させた中国のケ小平、烏合の衆が集まっても、何も出来ないのです」
 日本の惨状は、民主主義を弄んできた政治家と官僚たちの合作によるものである。
 業を煮やした鳥羽さんは、国家の指導者を養成する「憂国サロン(仮称)」を銀座に開設する。私財を投入して銀座に八階のビルを建設しているが、その七、八階をサロンに当てる。ここで、志、使命感、国家観を持った未来の指導者を育てる。優れた指導者が不在ならば、その指導者を育てよう、という壮大な構想である。
 勇将のもとに弱卒なし、を実践する。

 日中時代を築く

 日本経済の長期低迷は、若年労働者ばかりか、中高年の雇用をズタズタにしている。
 四百万人に迫ろうとしている完全失業者の中で、中高年の再就職は絶望的である。デフレ経済の最大の犠牲者は、失業者と高齢の貯蓄生活者である。見るも無惨な少子高齢化の中で、職を失ったり、早期退職に追い込まれた人たちは、貯蓄を取り崩して生活している。
 サーチ型人材斡旋の草分け会社である東京エグゼクティブ・サーチの江島優会長が語る。
「もう、政治や行政機関に期待してもダメですよ。だって国家の税収は予算の六割しかないのですよ。四割の赤字を国債で補っている状態ですから、民間企業ならば、とっくに倒産しています」
 江島さんは日本の惨状を冷静に分析した上で、ひるまない。それもそのはず、貧しい農家の次男として誕生した江島さんは、いわゆる苦学生を経て、中大法学部を卒業したのが昭和三十二年。大学は出たけれど、国内の就職先がなく、鳥羽さん同様ブラジルに渡る。鳥羽さんはコーヒー畑だったが、江島さんは砂糖キビ畑で働いた。後に味の素がブラジルに進出したのを機に、語学力を買われ採用される。江島さんはおカネを貯め、アメリカに渡り、カリフォルニア大学経営学部に留学。ここで、アメリカ型人材ビジネスを学んだ。そして帰国後、現在のビジネスを創業した。
「いま、日本は大変な状態ですが、戦後に比べたら天国のようなものですよ。自殺者は多いですが、餓死者はいないじゃないですか」
 留学中に、「世界恐慌時代のアメリカの人材ビジネス」を学んだ江島さんは、いまの日本経済の人材流動化は、ビッグチャンスと捉えている。
 人材の流動化から見た日本経済の構造改革は、日米欧の三極から、米中欧に基軸が変化していることに気付かねばならないと、警告する。日本は、日中、日亜に軸足を移動しなければならないのだ。  世界の工場と化した中国に、日本の中高年技術者の出る幕は山ほどある。既に江島さんは大連市と提携して日中人材交流ネットワークを構築している。大連の外にも上海、北京、深?にもネットワークを広げようとしている。
 七十歳に手が届くところまできたにも拘わらず、江島さんは三十年後の日本を心配している。  団塊の世代がこの世から去れば、日本人口は一億人を割る。その時、少子化の弊害がモロに出る。国内の若年労働者が不足する。
「その時は、中国から若年労働者を派遣してもらうのです。そのために、いま中高年の技術者たちに中国で働いてもらいたい。そうすれば、三十年後に恩返しをしてくれるでしょう。人間と人間のつながりの積み重ねが、日中間の絆を強固にしていくのです」
 鳥羽さんにしろ、江島さんにしろ、若い時に地球の裏側まで出稼ぎ≠ノ行っている。それが後の自らの人生を切り拓くエネルギーになった。他力本願を止め、自力本願で生きてきた見本がここにある。
 再び、「勇将のもとに弱卒なし」である。
 国家指導者に勇将が出現することを望んでやまない。
 


イラスト:
かわかみゆういち
 
月刊「力の意志」(サンラ出版) シリーズ 視点・論点